2015年08月05日(水) 12時35分
  • INTERVIEW

『パズドラ』チートツール逮捕事件に見るスマホゲームの“リスク” サイファー・テック株式会社に訊く「スマホゲームユーザーがするべきセキュリティ対策」

2015年6月、『パズル&ドラゴンズ』(以下『パズドラ』)のゲームデータを不正に改ざんできるツールを販売した男性が逮捕された。この事件から改めて浮き彫りになったのが、スマホゲームにまつわる犯罪とリスクの存在だ。

スマホユーザーが爆発的に増加し、数多くのゲームアプリがリリースされる今、このようなトラブルに巻き込まれてしまうケースにはどのようなものがあるのか。また、リスクを避けるためにメーカー、ユーザーはどうするべきか。ネット・デジタルコンテンツのセキュリティを専門とするサイファー・テック株式会社にスマホゲームを取り巻くリスクとセキュリティについてお話を伺った。

 

サイファー・テック インタビュー パズドラ チート 逮捕

サイファー・テック株式会社
広報担当 成田 直翔 氏

 

『パズドラ』チートツール販売者は何故逮捕されたか-神奈川県警・京都府警がサイバー犯罪に強い理由

 

9-Bit:まず最初に、今回の事件の概要についてお伺いします。メーカー発表や報道によると、今回の事件では『パズドラ』のゲームデータを不正に改ざんしたことにより逮捕されたという事ですが、そもそもこれはどのような罪で逮捕されたのでしょうか。

 

参考リンク:
【パズル&ドラゴンズ】「著作権法違反」容疑による逮捕の発表に関して (ガンホーゲームズ)

「+297」「最強」…「パズドラ」チートツール販売容疑で男を逮捕 神奈川県警 (産経ニュース)

 

成田直翔氏(以下「成田」):今回の事件では、例えばパラメータを変更してキャラを一気に強化したりすることができる「チートツール」と呼ばれるソフトがあるのですが、これを使ってゲームを簡単に進められるようにゲームデータを変更、つまりゲームデータという「著作物」を著作権者であるメーカーの意図していない形に不当に変形させたという理由で、著作権法違反が適用され逮捕に至っています。

 

9-Bit:このような犯罪が起きたのはこれが初めてなのでしょうか。

 

成田:いえ、チート行為による犯罪は実は昔からあったもので、PC ゲーム・コンシューマゲームでは様々な事例が発生しています。有名なものでは『ときめきメモリアル』(コナミ)というコンシューマ機向けのゲームでチートツールが使われ、訴訟になったという事件がありました。

 

参考リンク:
ときめきメモリアルメモリーカード事件 – Wikipedia

 

▲チートはファミコンの時代から存在し、チートの歴史はビデオゲームの歴史と言っても過言ではないとの事。写真は『ときめきメモリアル』パッケージ(PSP 版)。

 

9-Bit:チート行為の発覚から逮捕までの流れはどのようになっているのでしょうか。

 

成田:通常のケースですと、まずメーカーがチート行為による被害を確認したらそのアカウントのユーザー情報を確認し、警察のサイバー犯罪対策課に通報して捜査の上、逮捕という流れになります。

 

9-Bit:今回の事件では埼玉県在住の被疑者を神奈川県警が逮捕、となっていますが、ガンホー・オンライン・エンターテイメント社は東京にありますよね。何故東京都の警視庁ではなく神奈川県警が動いたのでしょうか。

 

成田:神奈川県警は PC オンラインゲーム関連の事件を数多く扱っているために特にゲーム関連のサイバー犯罪に強く、そのため越境して神奈川県警に捜査を依頼するというメーカーも多いのです。因みに全国の警察署の中でも神奈川県警と京都府警はサイバー犯罪に強いという事はセキュリティ業界でも有名な話です。京都には任天堂の本社があり、同社はサイバー犯罪や海賊版・コピー犯罪に対する取り締まりの意識が強い会社なので、共同で捜査に当たる京都府警も任天堂と共にサイバー犯罪に対して経験を積んでいったためです。

 

「チート行為」は犯罪か-「チート代行」問題に潜むオンラインゲームの闇

 

9-Bit:さて、今回の事件では「チートツールを使ったデータの改ざん」が「著作権法違反」という事で逮捕に至ったわけですが、「チート行為」をすると「犯罪」になるという認識でいいのでしょうか。

 

成田:いえ、チートが全て犯罪行為に当たるとは限りません。例えばチート行為にはゲームのバグ・不具合を利用したものもあるのですが、これだけだと犯罪として取り締まるのは難しいでしょう。また、チート行為に対する罪状も著作権法違反だけではなく、「業務妨害」や「不正競争防止法違反」として取り締まられたケースも過去にありました。このようにチート行為そのものを取り締まる法律がなかったり、取り締まるにしても穴があったりして、法制度が整っていないというのが現状ですね。とは言うものの、チート行為は昔から特に PC オンラインゲームで問題になってきていましたが、同様にオンライン要素を持つスマホゲームの爆発的な普及によりチート行為も多種多様な事例が発生・増加しているような状況ですので、今後はそういった犯罪に対応できるように新しい法律が制定される等の対策がなされる可能性も高いと見ています。

 

9-Bit:スマホゲームのユーザーは PC ユーザーと比べてネットについての知識やサイバー犯罪に対する意識が低い人も多いという点がトラブルの増加にも繋がるのではないかと思いますが、こういったトラブルに巻き込まれないようにするためにはどうしたらいいのでしょうか。

 

成田:まず前提として、こういったサイバー犯罪は普通にゲームを楽しんでいる分には巻き込まれるようなことはありません。せいぜいゲームの対戦相手がチートによって異常に強くなっていたために負けて悔しい、くらいの被害が関の山でしょう。気をつけなければならないのは、「チート行為をしているユーザーに近寄らない」という事です。そのユーザーがチートをしているユーザー=「チーター」であるとわかった時点で関わらないようにした方がいいでしょう。

 

9-Bit:一般のユーザーがチーターと関わることになるようなケースというのはあるものなのでしょうか。

 

成田:最近横行しているのが「チート代行」という手口です。Twitter 等で検索するとゲーム別に多くのアカウントが出てきますが、こういったアカウントは機種変更のシステムを悪用し、チートを施したアカウントを販売する、といった行為をしています。

 

サイファー・テック インタビュー パズドラ チート 逮捕

▲ネットで検索すると多くの「チート代行業者」が横行している様子が見られる。

 

9-Bit:チートしたアカウントをチーター自身が利用するのではないという事は、そのアカウントを使っているユーザーがデータの改ざんを自分で行っているかどうかわからなくなってしまいますね。

 

成田:チート代行を利用したユーザーからしてみると、他人にチートしてもらったアカウントを利用しているという事で罪の意識も軽くなってしまいがちですが、チートしたアカウントであることが運営にわかってしまうとアカウントをバン(閉鎖)されてしまいますし、犯罪行為に加担しているという事にもなります。また、調査によるとチート代行業者との金銭トラブルも非常に多いという話ですので、こういった違法・グレーなサービスは一切利用しないことをお勧めします。

 

まだまだ低いメーカー側の「チート対策」意識-「コラボ」がメーカーリスクを増大する

 

9-Bit:チーターに対するメーカーの対応状況はどのようなものでしょうか。

 

成田:実は大手のメーカーでも非常に限定的な対応しかしていなかったり、そもそもチートに対する知識がほとんどないというメーカーも少なくないというのが現状です。スマホのゲームは「Free To Play」のものが多いので配信開始した時点ではどれくらい利益が出るかわからないですし、利益はまず開発費に充当させたいという考えのメーカーが多い。セキュリティやチート対策にかけるコストは二の次となってしまいがちなんですね。

 

9-Bit:確かに、人気が出て売上が上がるかどうかわからないゲームに対して開発費以外に更にコストを上乗せするようなリスクは、メーカーとしては負いたくないでしょうね。

 

成田:「人気が出て売上が上がったらそれから対策すればよい」という考え方もありますが、スマホゲームはリリース直後から一気に人気が出るタイトルも少なくありませんので逸失利益が発生する可能性もありますし、後からチート対策ツールを導入するのは開発当初から入れておくよりもやはり導入コストが上がります。それだけではなく、スマホゲームのコンテンツ運営・展開が多様化したことでメーカーにとってチートされることによるリスクの幅が広がっているという現状もあります。

 

9-Bit:コンテンツの多様化によってリスクが広がるというのは、具体的にはどういう事でしょうか。

 

成田:最近のスマホゲームはアニメ・漫画等、他の IP を使ったタイトルやコラボキャンペーンが多いですよね。例えばそういったゲームからチートによって他の IP の画像、声優によるボイスデータが抜き取られてしまったらどうでしょうか。二次利用されたり販売されたり、といった事態になれば IP の版権元との間でトラブルになりうる恐れがあります。スマホゲームのコンテンツとしての幅が広がったことによって、チーターがデータを改ざんしたり抜き取ったりする動機の幅も広がっているというわけですね。

 

9-Bit:そうなるとメーカーにとっても大きな痛手になりますね。

 

成田:ええ。ですから、自社が被るリスクを最小限に抑えるためにもメーカーには開発の段階からセキュリティ対策を行う意識をできる限り持っていただきたいですね。

 

個人情報、アカウント乗っ取り-ますます増加する危険に晒されるスマホを守るには

 

9-Bit:スマホゲームに関連するリスクやトラブルは、チート以外にはどのようなものがありますか。

 

成田:PC オンラインゲームでよくあるトラブルに RMT(リアルマネートレード。ゲーム内アイテム・通貨を現実世界のお金と取引すること)にまつわる金銭トラブルがありますが、スマホゲームでもネットオークション等を介してアイテムを売買するケースが更に増えてくると思います。
また、最近その是非が問われ話題になったリワード広告では、広告をクリックしたらもらえるはずの課金アイテムがもらえなかったり、有料アプリが無料でダウンロードできるようになるはずなのにいざ落としてみると有料のままだったり、といった詐欺まがいの事例も発生しています。

 

9-Bit:今後予想されるリスクにはどのようなものがあるでしょうか。

 

成田:これは中国・アジア等海外でよくある事例なのですが、海賊版アプリにマルウェアが仕込まれていて、アカウントを乗っ取られたり個人情報を抜き取られたりする場合があります。ゲームではまだそういう事例はあまり見られませんが、今後そういうゲームが出てくる可能性は高いでしょうね。

 

9-Bit:お話を伺っていると、スマホゲームも様々なセキュリティリスクに溢れているものだという事がわかります。最後に、こういったトラブルに遭わないようにするために気をつけるべき点を教えてください。

 

成田:先にも言いましたが、とにかく「君子危うきに近寄らず」という事を心掛けていただきたいと思います。チート行為はちょっとネットで検索すればやり方がわかってしまい手軽にできてしまうため、罪の意識を感じにくい行為になりがちですし、チート代行や RMT での金銭のやりとり、海賊版アプリのインストールもちょっと調べれば簡単にできてしまいます。一時はチートによって有利にゲームをプレイできるかもしれませんが、一方で個人情報や金銭が危険に晒されるリスクもあるものです。近寄らない・利用しないように気をつけていれば被害に遭うことはありませんので、怪しいものには近寄らないようにしてスマホゲームを楽しんでいただきたいですね。
何よりも、不正によって本来メーカーに入るべき売上が減ってしまうことでゲームの開発・アップデートができなくなり、将来楽しめるはずだった新しい要素やイベントがプレイできなくなるというのはゲームファンとして残念なことですよね。そういった事態を引き起こすという点でも、チート行為は違法コピーと同等の“犯罪行為”と言っても過言ではないと思います。スマホゲームを楽しくプレイするためにも、チートをはじめとする不正行為には絶対に手を出さないようにしましょう。

 

9-Bit:リスクやトラブルを避けるためには、ユーザー側の意識の持ち方が重要だという事ですね。本日はどうもありがとうございました。

 

サイファー・テック インタビュー パズドラ チート 逮捕

サイファー・テック株式会社
http://www.cyphertec.co.jp/

 

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